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【ショートショート】旅の終わり

 ゴミ捨て場の隅に、白髪の老女がうずくまっていた。
 「どうしましたか?」
 と声をかけると、
「見えるのですか? 私の姿が」
 と聞き返された。
「はい。見えますよ」
「それは珍しい」
 なにを言っているのかよくわからなかったが、
「それよりお加減がお悪いのでは」
 と重ねて聞くと、
「はい」
 とうなずいた。
「立てますか」
 無理そうだったので、私は老婆を背負って家に戻った。
 ベッドに寝かしつけると、その日はすやすやと眠ってしまった。
 翌朝話を聞くと産院で生まれたとき、父も母も医者も彼女の姿を見ることができなかったそうだ。
 ただひとり、看護婦長にだけ見えたので、彼女は黙って赤ん坊を引き取り、育てた。
 やがて看護婦長が亡くなると彼女は放浪の旅に出た。
「ときどき私のことを見える方がいらして、助けていただきました」
 と彼女は言った。
 顔色がそうとう悪い。医者に診せなければと思ったが、彼女は笑って、
「私のことが見える医者はいませんよ」
 と言った。
「大丈夫。私の旅もここで終わりです」
 その言葉通り、私が会社から戻ってくると、老女の姿はなかった。ベッドの上には彼女の着ていたユニクロの服だけが残されていた。

(了)

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