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【ショートショート】出られない家

 トンネルに入るたびに出口はないのではないかと不安にかられる。
 どこまでも続くLEDの灯りが不安を煽る。
 しかし、いくら長く感じられてもかならず終わりはくるのだ。
 パッと視界が開け、田畑の緑が目に染みた。
 私はハアッと息を吸い込む。いままで息を止めていたことにさえ気づかなかった。
 運転しているタグチが薄く笑った。
「どうしたんだよ」
 私はトンネルに対して抱いている不安について語った。
「幼児期になにかおそろしい体験でもしたのかい」
「小さい頃のことだから、うろ覚えなんだけどね」
「うん」
「むかし、トンネルに住んでいたみたいなんだ」
「嘘だろ」
「トンネルのなかに長屋があったんだ」
 友人は首を傾げた。
「なんだいそれは」
「高架下の飲み屋みたいなものかな。トンネルの側面を深く掘ってそこに長屋を作ったんだ」
「暮らせるのか?」
「トイレとシャワーはあったな」
「食料品は?」
「大人が時刻表を見てトンネルを出入りしていたな。子どもはずっと家のなか」
「つらいね」
「外で遊んで轢かれでもしたらシャレにならないからね」
「そりゃあ恐怖症にもなるって」
 子どものときは自分は一生トンネルのなかで暮らすものだと信じていた。いまでもふいに窓の白いカーテンがオレンジ色に染まっていた光景を思い出す。
 またトンネルが近づいてきた。
 今度こそ出られないかもしれないと思い、私は軽く目をつむった。

(了)

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