【ショートショート】蓮と盗人
闇のなか、ぴーと笛の音が鳴る。
盗人ふたり組は前後を挟まれ、もう逃げ場がない。
兄貴分が叫んだ。
「こっちだ」
「池ですぜ」
「いいから飛びこめ」
ざばっと水音が立ってすぐに静まる。
水面はほぼ蓮の葉っぱで覆われている。
ということは、水深は一メートルもないということだ。
「落ち着け」
と言われて、弟分もそのことに気がついた。
もがくのをやめると、ちゃんと地に足がつく。
ふたりは岸からだいぶ離れ、蓮の葉のなかに身を隠した。
「つめてえ」
「水の中だからな」
「いっそのこと、向こう岸まで行きませんか」
「そりゃいい」
ふたりは歩き出した。
だんだんあたりが明るくなってきたが、まだ向こう岸は見えない。
やってきた方向を振り返っても、岸が見えない。
「大変なことになっちまったな」
「蓮池がこんなに大きいとは知りやせんでした」
蓮といえば、神聖な花。
お釈迦様は掌の上をちょこまか移動している盗人ふたりを見て、くすりと笑った。
(了)
ここから先は
0字
このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。
朗読用ショートショート
¥500 / 月
初月無料
平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…
新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。