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Photo by
kubochi___
【ショートショート】影
洗濯物を取り込みにベランダに出た。
Tシャツやタオルを折り畳み、大きな紙袋にしまう。
そろそろ夕闇だ。窓に灯が点る。
お向かいのお宅の二階の窓はうちと同じ磨りガラスだ。
はっきりとは映らないが、人の行き来している様子がみえる。
テレビでも見ているのだろう。二人がソファに座っている。
ひとりがお盆をもって入ってきた。
平凡な団欒風景である。
日が落ちて寒くなってきた。
オレは家の中に入った。
翌日、お向かいの奥さんがオレんちの呼び鈴を鳴らした。
「ちょっと旅行に行っておりまして、これ、つまらないものですが、お土産です」
「えっ」
オレは驚いた。
「昨日はお留守にされていたんですか」
「はい。三日ほど沖縄に」
じゃあ、オレは見たものはなんだったのだ。
怖がらせてもいけないので、オレは感謝の言葉を述べて、お土産を受け取った。
夕方。
オレは家の外に出て、自分の家の二階を見上げた。
磨りガラスに人の姿が映っている。
一人で住んでいるのに、どういうことだ。
磨りガラスの中の薄い世界に誰かが暮らしているということだろうか。
人は、ふたり見える。
あのなかでは、まだ妻は家にいるのだなあ。
(了)
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