
Photo by
122801
【ショートショート】終わりの色
お父さんが大きな欠伸をしながら、カーテンを開いた。
窓ガラスが赤い。
「えっ」
と声を発して、窓をあけた。冷たい風が吹き込んでくる。
「あなた、なにしているの」
お母さんが近づいてきた。
ふたりは黙って、真っ赤な空を眺めた。
五分、十分。
「冷えてきたわ」
二人は窓を閉めた。
娘が寝室から出てきた。
「どうしたの」
「空が赤いんだ」
「学校、行きたくないな」
お父さんがリモコンでテレビをつけたが、画面は空白。ニュースはまったくないし、字幕ニュースさえ流れない。
ときどきセットされていたコマーシャルやドラマなどが流れるだけである。
「テレビ局の人だって、こんな日に仕事なんか、しないよなあ」
「今日は好きなことをして過ごしましょう」
とお母さんが宣言した。
好きなことってなんだろう。
三人三様に考えたが、よくわからない。やがて、
「私、LINEする」
と言って、娘は部屋に引っ込んだ。
お父さんはBlu-rayをセットして、お気に入りの映画を見始めた。
お母さんは押し入れから段ボール箱を引っ張り出して、推しの切り抜きを読み返し、きれいにファイリングした。
「おなか、空かない?」
「なにか作ろうか」
「いや、オレが作ってみる」
お父さんはYouTube動画を参考にオムレツを作った。
「うん」
「いける」
学校や仕事のない一日はとても長い。
まだ外は赤いままだが、時計の針が十時を指したので、三人はベッドに入った。
「おやすみ」
(了)
ここから先は
0字

このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。
朗読用ショートショート
¥500 / 月
初月無料
平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…
新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。