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【ショートショート】てのひら台風

 緑色の髪をした魔女がてのひらを突き出した。
「いい、見てて」
 海。日本列島。
 その上にぽわっと、雨雲が出現した。中心に近いほど色が赤い。
「なにこれ、面白い」
 黄色い髪の魔女がまじまじと覗き込んだ。
「いい、動かすわよ」
 雨雲はじわじわと色が水色から黄色、赤へと変化し、九州地方から四国地方へと移動していく。でも、いくつか移動パターンがあるようで、雨雲はだんだん薄れ、途中で消滅した。
「あ、終わっちゃった」
「ウェザーアプリの雨雲レーダーを立体化して、てのひらに表示してみたんだ」
「なんだ。自分で予測しているんじゃないの」
「そんなリソースないよ」
「計算リソースだけの問題なの?」
「そうだよ」
「じゃあ、クラウドコンピューティングを使うといいよ」
 ITに強い黄色の魔女は、大量のリソースを開放してくれた。
「あら、いいの」
「モーマンタイ、モーマンタイ」
「じゃあ、もう一度やってみる」
 緑の魔女がてのひらに台風を呼び出した。今度のやつはさっきよりずいぶんリアルだ。
「面白いねー」
 ふたりの魔女が夢中で台風の進路に見入っている頃、オンラインゲームや企業の基幹システムやネットサービスが落ちまくったが、彼女たちにはまったく無問題であった。

(了)

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