【ショートショート】無関心モード
道路の向こうからタテカワがやってきた。
小中高と同じ学校で、同じ団地に住んでいるから顔見知りではある。
しかし、友だちとは言いたくない。
やつは歴史オタクで、オレは歴史にぜんぜん興味がないからだ。
そして、やつは話し好きで、おれは無口と来ている。
黙って聞いているから、やつはオレのことを歴史好きと勘違いしている。
「おーい、イソジマ」
ほら、やっぱり声をかけてきた。
「なんだよ」
「観たか、昨日の大河」
「いや、まだだけど」
「帰ってすぐ観ろ。すげーから」
「なにが」
「まひろさがさー」
まひろってなに。オレはあきらめて喉をスマホに明け渡した。
スマホは生成AI機能を使って、適当な相づちを打ってくれる。
「とうとう源氏物語を書き出したんだよっ」
「マジかっ」
オレは内心でクビを傾げている。源氏物語を書いたのって、紫式部じゃなかったっけ。まあ、いいや。
「度胸あるよなー。帝が読むことがわかっていてさー、よく宮廷の話なんか書けるもんだよ」
タテカワはまひろを連発し、オレは適当な返事を返す。
「オレもあんな女に恋してみてえ」
と勝手なことを言ってやつは去って行った。
おれは喉の声帯をスマホから取り戻し、質問した。
「で、まひろって誰よ?」
「ドラマのなかでは紫式部の名前です」
なあんだ。
「そのドラマ、面白いの?」
「視聴率はいまひとつですが、たいへんな話題になっています」
ひとつ、観てみるか。タテカワのために観るというのもしゃくにさわるが。
(了)
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