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【ショートショート】学習

 大きな地下室。
 高いところに小さな窓があり、かすかに光や音や匂いが入ってくる。
 外の気配を聞き逃すまいと、閉じこめられた人々はじっと押し黙っている。
 がらがら。がらがらがら。
 石畳の上を馬車が走るような音がすると、地下室の住民が増える。気を失った人間が、扉からどさ、と投げ込まれるのだ。
 私も気づいたたらここにいたので、自分がどういう経緯で地下室に放り込まれたのか、まったくわからない。
 食事は三度、出てくる。壁の一部が開き、人数分のプレートが差し入れられるのだ。最初はドックフードのような最低限の栄養だったが、だんだん食事っぽくなってきたのが不気味である。
 最近ではカレーやチャーハンなども登場する。
 私の前からいる人に聞くと、最初は布団もなかったそうだ。
 どう考えても、だんだん人間について学んでいるとしか思えない。
 ある夜、月明かりを見あげていたら、霧のようなものが吹き込んできた。
 意識が朦朧としてくる。
 気がつくと、大幅に人が入れ替えられていた。
「あっ、あなた」
「ヨシコ!」
 私は妻の姿をみつけてあわてて駆け寄った。
「サトルもいるのかな」
「サトルー」
 妻が叫ぶと、遠くから、
「ここだよー」
 とサトルの声が帰ってきた。
 どうも、管理者たちは家族という概念を学んだらしい。
 いつ自由について気づいてくれるだろうか。それとも、それは高望みすぎるだろうか。

(了)

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