【ショートショート】庶民的な王様
ある日、王様が言いました。
「庶民の生活が知りたいぞ」
脇に控える大臣たちはどうしたものかと顔を見合わせます。自分たちもよく知らないからです。
命令は部下たちに伝達されていき、とうとう立派な陶器の箱に入ったまずしい庶民の服が届きました。
「ひとつ着てみようではないか」
服は麻でできていました。古い布を継ぎ足し継ぎ足してなんとか服の体裁を保っているボロです。
「これだけか」
と王様は聞きました。
「ははあ」
「寒いな。この服を着て、庶民はどんな家に住んでいるのだ?」
今度は王宮の大広間に庶民の家が移築されました。
「ベッドがないではないか」
「はい。庶民はベッドを使っておりません」
「どうやって寝るのだ」
「身体に薄い布をかけ、板の上に寝ます」
王様は庶民の料理人を雇い、トイレも庶民風に改造しました。
王様が庶民の生活をしているのに、自分たちだけ豪華な生活を続けることはできません。貴族たちも争って庶民化しました。
庶民は時間がたつにつれだんだん豊かになっていきましたが、伝統を重んじる王宮では、ずっと質素な生活が続きます。
やがて庶民たちはずかずかと王宮に入ってきて、
「あの貧相なやつが王様かい? たいしたことないねえ」
と満足そうな表情を浮かべました。
外国の大使は貴族たちと面会し、「このような貧乏な国は支配するにも値しません」と本国に連絡しました。
王様の国は革命も起きず、戦争にも巻き込まれず、長い平和を謳歌したそうです。
(了)
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