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【ショートショート】名称のない病気

 昨日から体調が変だと思っていたが、目覚めると、具体的な症状として鼻水と喉の奥の痛みがあらわれた。
「病気みたいだな」
 と呟くと、部屋がそれに反応して、ディスプレイに白衣の医者が映った。
 ベッドが私のバイタルを測定して、遠隔地に伝える。
「ただの風邪だと思うんですが」
「いまはそうですね。しかし、予断は禁物です。複数の病気が隠れている可能性があります」
「カクテル病というやつですか」
「そうです。今日は会社をお休みしてください」
「わかりました」
 私がなにもしなくても、医者の診断書付きの病欠届がすでに会社に届いていることだろう。
 いちおう実家には伝えておこう。ディスプレイ越しに父と母が心配そうに私の姿を見ている。
「大袈裟だな」
「でも心配だわ」
 母は医療ロボットを送り込んできた。
 より詳細なバイタルが明らかになった。
「これは深刻ですな」
 と医者は言った。
 医者の予測通り、日に日に症状は増えていった。右足に痛みが出たかと思うと、肺が苦しくなり、食欲が失せる。
 ほとんど寝たきりだ。
 親友たちの顔がディスプレイに大きく映る。いちいち病状を説明するのは面倒だと思っていたら、ロボットがすべて代替してくれる。ずいぶん助かった。
「風邪がこんなことになるものですかね」
 と医者にきいてみると、
「風邪はトリガーに過ぎません。いままでいろいろな病気が身体のなかに潜んでいたのです。それが一気に出てきたということでしょう」
 と答える。
 気晴らしにドラマを観るのもつらくなり、活字も追えず、私は終日とろとろとまどろんでいた。
 名称のない病気なので、面会は完全に遮断されている。ひょっとすると、住人たちはすでにこの建物から避難しているかもしれない。
 痛みがだんだん遠ざかり、目も見えなくなり、最後に「ご臨終です」というロボットの声だけが聞こえた。最後まで残るのは聴覚だという話はホントだったと思いながら、私の意識は途絶えた。

(了)

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