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【ショートショート】道なきところ

 ピンポーン。
 インターホンが鳴り、私は玄関の映像をみた。
 リュックを背負った知らない男性が立っている。
「どなたですか」
 営業ならすぐ返ってもらおうと思い、ドアを開けずに問いかけた。
「どなた?」
 不審げな声が返ってきた。
 相手が手に持って画面に押し付けているのはスマホだ。どうやら地図アプリらしい。
 私は小首を傾げて、ドアをすこし開けた。
「なんでしょう」
「通してください」
「はあ?」
「ここ、道でしょう?」
 私は自分のスマホで地図アプリを起動してみた。
「観音寺駅から牛丸城までの経路を検索してください」
 と男は言った。
 ほんとだ。この家が経路に指定されている。実際、このあたりはたいへんな住宅密集地で、大きく迂回しないと、牛丸城跡にはたどり着けないのだ。
 あとで文句を言ってやろうと思いながら、私は、
「こちらへどうぞ」
 と声をかけた。
 ああ! 男は土足で廊下に上がってきた。
 裏口まで案内すると、お礼も言わずにさっさと裏側の斉藤さんのチャイムを鳴らしている。
 地図アプリの運営会社に文句を言ったが、お金で解決されてしまった。
 いまではもう玄関にカギもかけない。廊下には養生シートが敷いてある。通りたければ、さっさと通り過ぎればいいのだ。
 夜、眠っているときに酔っぱらいが通り過ぎるのはとても迷惑だが、そういう時はここがただの道だと考えてみる。寝室があるだけマシだと思わなければならない。

(了)

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