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【ショートショート】聞いているぞ
今夜は夜勤だ。オレは防犯センターのオペレーションルームに入った。
社会には数え切れないくらいの監視カメラ、盗聴装置が設置されている。
入ってくる情報が膨大で、もはや人間には処理しきれない。基本的には犯罪防止AIが見張りを行う。
オレが直接操作するのは、収音ロボットである。細長い一本の木のように見えるが、底には移動用の足があり、頂上は指向性の強いマイクがついている。一キロ前方のターゲットの会話を聞き取ることも可能だ。
「ねえ、どこまで行くの」
「しっ。どこで聞かれているかわかりゃしない」
「こんな暗い夜道に監視カメラなんてないわよ」
「まだ住宅地だろ。もうすこし我慢しろ」
二十三時。郊外の新興住宅地の会話が浮上してきた。収音ロボット二十三号からの通信だ。オレは耳を傾けた。
カップルは鉄道の高架下を通り過ぎ、寺の境内を抜け、火葬場を横に見ながら、河原に出た。
そのあとを収音ロボが追う。
「例の計画だが」
「うん」
「前倒しできないか」
「なにをそんなに焦っているの」
どうも聞き覚えのある声だと思ったら、妻ではないか。
「情報漏えいが心配でな」
「旦那は気づいてないわよ。灯台もと暗しってやつね」
「甘くみないほうがいいぞ。諜報の専門家だ」
そうだそうだとオレはうなずく。
「これが毒だ」
げっ。
「わかった。明日珈琲に入れてみる」
「即効性はないから、おまえは疑われない。安心してくれ」
くそー。自慢の妻だったのになー。
オレはふたりを確保するよう警察に連絡を入れ、ため息をついた。
(了)
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