【ショートショート】ゴジラ初体験
ここは千葉県浦安市のスターバックス。
私たちは子どもを幼稚園に送ったあとのひとときをここで過ごす。
いつものように噂話に花を咲かせようとしたところで、スマホからびー、びー、びーと大きな音がした。
「怪獣警報」の発令だ。
「今度はなにが来たの」
「ゴジラだそうよ」
「怪獣の基本ね」
「蒲田に上陸したそうよ」
私たちが呑気な会話を交わしているうちに、地面が盛り上がる感覚がした。
実際、地面は高くなっている。地下にある無数の巨大な車輪が起動したからだ。個人単位で避難するとたいへんなので、いまでは都市がひとつの車のように作られている。
浦安市は山のほうに向かって移動を開始した。
なぜかというと、怪獣に襲われた東京都が埼玉県や千葉県に逃げ込んでくるためだ。彼らのためのスペースをあけなければならない。
いまごろ、豊島区や板橋区、北区などが千葉県に向かって疾走している頃に違いない。
なにもないがらんとした東京都の真ん中に立つゴジラの姿がニュースに流れた。私たちはそれぞれのスマホでその姿を眺めながら、
「マヌケねー」
「どうする気かしら」
とからかう。
ゴジラが動き出した。
「あら」
「どうしたのかしら」
ニュース画面には、見慣れたビル群が映っている。あれはどうみても新宿副都心。
「エンストです。新宿区がエンストを起こしております」
とアナウンサーが告げる。
ゴジラは大歓びで放射線を吐きまくり、高層ビルを破壊しはじめた。右往左往して必死に逃げまどうひとびと。まるで映画を観ているようだ。
「あ。エンストが直ったのでしょうか。新宿区が動き始めました」
とアナウンサー。
迷惑なことにゴジラを乗せたまま新宿区が迷走しはじめた。
「大変だわ」
「こっちに来ちゃうかも」
私たちはあわてて散会し、息子を迎えに幼稚園に向かった。
(了)
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