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townnote
【ショートショート】正社員
誰もおれのことを雇ってくれない。
部屋にあるものを売り食いしていたが、いよいよ売るものがなくなった。
試しに髪の毛が売れないか探してみたら、カツラ会社が買ってくれた。
味を占めたオレは、臓器の売り食いを始めた。蛸が自分の足を食っているようだが、仕方がない。
買い手はもちろん富裕層。
「心臓がほしい」
と言われ困った。
「勘弁してください」
「礼金のほかに高価な人工心臓を提供するから」
医学はどんどん進歩していることを思い知った。おれはあらゆる臓器を売った。もう身体はロボットと言っても過言ではない。
あと、残っているのは脳みそくらい。
ある日、
「脳を買うよ」
という金持ちがあらわれた。脳腫瘍だそうだ。オレの脳から必要な部分だけを取り出し、移植するという。
かわりに提供されるのは高度な電子頭脳。さすがに悩んだが、生活苦を脱するためにはいたし方ない。
脳を売ったとたん、すぐに正社員として採用された。身体は頑健。脳は最高レベルの電子頭脳。もはや断られる理由はなにもない。
電子頭脳にコピーしたオレの記憶が「なんかへんだな」と呟いたが、電子頭脳は「問題なし」と断じた。
(了)
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