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Photo by
uranus_xii_jp
【ショートショート】モンシロチョウの群れ
三年生のクラスは校舎の三階にある。
ぼくは窓際の席からぼーっと空を眺めていた。
「あれっ」
様子がおかしい。まるで上空から雲が下がってくるみたいだ。
「こら、ゴトウ。なにをしてる」
理科のヤマネ先生がやってきた。
「先生。あれなに?」
「うん?」
その頃には、外一面に白いものが広がっていた。
「モンシロチョウが、どうしてこんなにたくさん」
先生も驚いている。
すこし窓を開くと、続々とモンシロチョウが教室に入ってきた。
チョウたちは人間をすこしも怖がることなく、ぼくたちの腕に止まる。
「かわいー」
と騒いでいる女子もいる。
ぼくは手首にチクッとした痛みを感じた。モンシロチョウがみるみるうちに赤く染まっていく。うそ。このチョウたち、吸血なの。
真っ赤に染まったチョウたちは窓から外に出ていくが、教室にはまだまだモンシロチョウがたくさん舞っている。
ぼくは教室から逃げ出した。
チョウは町中を覆っていた。血を吸われながら、大急ぎで帰宅する。
失血のせいでフラフラした。
これだけの大事件なのに、テレビのニュースではなにも触れない。
次の日、チョウの大群はきれいさっぱり町から消え去っていた。
おかあさんが郵便ポストに入っていた紙きれを見ていう。
「強制献血のお知らせってこれだったのね」
(了)
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