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【ショートショート】モンシロチョウの群れ

 三年生のクラスは校舎の三階にある。
 ぼくは窓際の席からぼーっと空を眺めていた。
「あれっ」
 様子がおかしい。まるで上空から雲が下がってくるみたいだ。
「こら、ゴトウ。なにをしてる」
 理科のヤマネ先生がやってきた。
「先生。あれなに?」
「うん?」
 その頃には、外一面に白いものが広がっていた。
「モンシロチョウが、どうしてこんなにたくさん」
 先生も驚いている。
 すこし窓を開くと、続々とモンシロチョウが教室に入ってきた。
 チョウたちは人間をすこしも怖がることなく、ぼくたちの腕に止まる。
「かわいー」
 と騒いでいる女子もいる。
 ぼくは手首にチクッとした痛みを感じた。モンシロチョウがみるみるうちに赤く染まっていく。うそ。このチョウたち、吸血なの。
 真っ赤に染まったチョウたちは窓から外に出ていくが、教室にはまだまだモンシロチョウがたくさん舞っている。
 ぼくは教室から逃げ出した。
 チョウは町中を覆っていた。血を吸われながら、大急ぎで帰宅する。
 失血のせいでフラフラした。
 これだけの大事件なのに、テレビのニュースではなにも触れない。
 次の日、チョウの大群はきれいさっぱり町から消え去っていた。
 おかあさんが郵便ポストに入っていた紙きれを見ていう。
「強制献血のお知らせってこれだったのね」

(了)

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