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【ショートショート】出口

「寒くない?」
「クーラー、ついてないわよ」
「えっ」
 じゃあ、この冷気はどこから来るのか。
 八畳のリビングがきんきんに冷えている。
「ここよ」
 妻が中腰になって、顔をテーブルの下に突っ込む。
 私も同じ格好をした。
 目の前が真っ白だ。
「おいでー」
 と妻が叫ぶ。
 可愛いペンギンがとことことこちらに向かってくる。
「おいおい。ペンギンは保護されているんだ。接触したら怒られるぞ」
「平気平気。誰もいないじゃん」
「そうだけど」
 ペンギンは人なつこく、すぐ妻になついた。
「あ、そろそろ夕ご飯の支度しなくちゃ」
 妻は立ち上がるとキッチンに向かった。ペンギンもあとをついていく。
 冷気はいつの間にかなくなっていて、テーブルの下はふつうの板の間だ。
 うちにへんな動物が多いのは、このテーブルのせいである。
「そのペンギンも飼うのかい」
「だって、もう戻せないでしょ」
 ペンギンは初夏の暑さにぐったりしてる。私はクーラーのスイッチを「強」にした。ソファの上にいたテングザルが寒さにまいって二階に逃げていく。彼がやってきたときは猛暑になったものだ。
 いい加減にテーブルを始末したいのだが、最初にこのテーブルをくぐって出てきたのが私であることを考えると、なかなか決断できないのだった。

(了)

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