【ショートショート】揺れない日
日曜日の午前九時。
そろそろ朝食を食べようかと思ってベッドから立ち上がった瞬間、ぴたりと揺れが止まった。
「え」
ぼくはとまどい、足がふるえた。
揺れない日は予告なしに来る。
ふだんはずっと揺れているのだ。
いつも地面が揺れているのは、地震対策センターが地中深くで人工地震を発生させているせいだ。ふだんからエネルギーを発散させておけば、関東大震災を避けられるだろうという思惑である。
年に一度、ぴたりと地震を止めるのにどういう意図があるのかはよくわからない。
ぼくは安田に電話した。
「年に一度とはいえ、落ち着かないなあ」
と彼は言った。
「遊びに来ないか」
「行く行く」
安田はすぐにやってきた。
「道路、空いていたよ。いつものような四〇キロ制限がないからな」
ぼくはコーヒーを出した。
テーブルの上には振動を吸収するゴム製コースターが乗っているが、今日ばかりは出番なしだ。それでも、安田は口をつけてから、コースターの上にカップを置いた。習慣の力だろう。
「揺れがないと、騒音も消えたような気がするな」
「ああ、いやになるくらい静かだ」
「今日はどうする」
「公園にでもいくか」
揺れない日に限ってホンモノの大地震が来たりするのではないか。心の底にはいつもその不安がある。なるべく開けた場所に行きたい。
ぼくたちは都心にある大きな公園に行き、芝生の上にシートを敷いて寝転がった。
あたりは家族連れでいっぱいだ。幼い子どもたちは芝生の上をごろごろ転がって遊んでいる。きっと振動のない世界が信じられないのだ。
ぼくも転がりたい気分だったが、大人なので我慢した。
(了)
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