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【ショートショート】夢の跡

 源義経と武蔵坊弁慶は最期のときをむかえていた。
 敵は多勢。
 義経はお堂にこもり、弁慶がひとりで薙刀を振り回して奮闘していた。
 あまりにも強いので、敵は、
「退け退け」
 と言って、いったん退き、雨のような矢をふらせた。
 体中ハリネズミのようになった弁慶はさすがにまいり、徐々に弱っていった。いつ死んだかはよくわからない。
 死んでも弁慶は倒れなかったからだ。
 やがて戦が終わり、敵が立ち去ってもまだ弁慶は立っていた。
 鎧、兜は盗まれた。
 その肉体も腐敗して地に落ちた。
 弁慶は骨格標本のようになったが、それでもまだ倒れない。
「たいしたものやなあ」
 たくさんの観光客が訪れ、衣川館で弁慶の骨をなでさするようになった。とくに赤ん坊になでさせる親は多かった。子どもが豪傑になりますように、との願いをこめてのことだ。
 数百年かかって弁慶の骨はすりへり、消滅した。

(了)

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