【ショートショート】空飛ぶペット
友だちのユウジのマッションを訪ねた。
「やあ、いらっしゃい」
リビングに入ると、毛深い絨毯がなくなり、柔らかい木目のカーペットに変わっていた。
「あの高そうな絨毯、どうしたんですか」
「ああ、彼なら帰って行った」
「彼?」
「うん。毎年、春になると、窓から飛び出していくんだ」
「空飛ぶ絨毯ってことですか」
「メールアドレスをつけておいたら、先方から返事が来たよ」
ユウジはスマホを開いて、ロシア語のメールを見せてくれた。
「渡り絨毯、ですか」
とぼくは言った。
「こんな不思議なもの、どこで買うんですか」
「下町の絨毯屋だよ。あそこの絨毯はみんな生きているんだ」
「これもそうなんですか」
私は木のカーペットを撫でた。
「そうだよ」
「ペットみたいですね」
ユウジはつまみのチーズをすこし千切って、床に落とした。チーズの欠片はゆっくり融解し、カーペットに吸い取られていった。
ぼくはびっくりして、カーペットから手を離す。
「友だちは食べないよ」
とユウジが笑う。
とりとめない話をして飲み食いしていると、いい時間になった。
「フライ」
とユウジがいうと、カーペットはふわりと浮かんだ。大きな窓から私たちは空中に飛び出した。
「家まで送るよ」
高い場所からみる満月はいつもよりすこし大きく見えた。
(了)
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