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【ショートショート】飛翔のグルメ

 ある夜、背中に羽の生える夢を見た。
 目が覚めても、背中の羽は消えなかった。
 シャワーを浴びたときに、いきなり背中の羽が開いてそのことに気づいたのだ。
 私は羽をたたみ、リビングに行った。
 妻の背中にも羽があることを確認した。ここはそういう世界なのだ。
 朝食を終え、私ははじめて空を飛んだ。
 この世界には道路とか交通網の概念がない。空を飛んでいけばいいからだ。
「おはようございます」
 会社に到着して、自分の席につき、同僚に挨拶した。
 パソコンを立ちあげると、インターネットに接続できた。なるほど。宇宙開発は元の世界よりも発達しており、衛星回線で世界がつながっているのだ。
「なにをしているんだ?」
 係長ににらまれ、私はあわてて社内ネットワークに切り換えた。デスクワークを続けて、定刻に退社し、自宅に戻った。
 しばらく自宅と会社の往復が続いた。
「この世界に慣れた?」
 と妻に聞かれた。私が違う時間線から来たことを知っているのは妻だけだ。
「慣れた。せっかく羽があるのに通勤にしか使わないのはもったいないなあ」
「じゃあ、独立すれば? 私、雑貨の鑑定なら自信あるよ」
 こうして私は雑貨商となり、世界を飛び回っている。品物を届けた先で、おいしい料理屋を見つけるのがいまの楽しみだ。

(了)

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