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【ショートショート】工場勤務

 工場に勤めている。
 なんの工場かと聞かれても困る。
 オレは組立工で、ベルトコンベアで運ばれてくる部品に別の部品を捩じ込んでいるだけだ。長大なベルトコンベアには組立工がびっしり張りついており、部品はどんどん大きくなっていく。
 以前ベテランに聞いたところでは、いくつかのコンベアがひとつの部屋に合流し、そこで最終的な組み立てが行われるという。
 なにかよからぬものである予感はひしひしとするが、下手に探ってクビになるよりは、黙って高めの給料を貰っているほうがいい。
 以前の職場をリストラされたとき、会議室で簡単な面接を受け、すぐに採用が決まった。
「いつから働けますか」
 と聞かれ、冗談で、
「いまからでも」
 と答えたら、そのまま工場に連れて行かれた。
 工場内には動く歩道があった。
「あの」
「なんでしょう」
「これはどこに向かっているんですか」
「あなたの担当する場所ですよ」
「もうだいぶ来た気がするんですが」
「あと二時間くらいかなあ」
 思わず「げっ」という声が出た。通勤に四時間もかかるのか。
 灰色の壁にたくさんのドアが並んでいる。
「あなたのドアはDH07ですから、覚えておいてください」
 反対側の壁にもドアが並んでいる。
「こっちのドアはなんですか」
「我が社の寮です」
「そんな施設があるんですか! 入れてください!」
 オレが叫ぶと、係の人はうなずいた。
「手配しておきます」
 通勤は往復二十分に短縮された。
 ここまで遠いと、外出するのも億劫だ。私はもう二年近く工場から出ていない。
 おっと。出勤時間だ。オレは今日もベルトコンベアに張りつく。

(了)

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