【ショートショート】よくできました
社内会議に呼ばれた。
同期のヨシダの横の席につく。
「オレはなんで呼ばれたんだい?」
「おまえははあだ名をつけるのがうまかっただろ」
「昔の話な」
「今日は新商品のネーミング会議なんだよ。もう五回目だ。うちのメンバー、そういうセンスはないから頼むよ」
「こほん」
と議長席の男が咳払いをして会議が始まった。
机の中央に台座があって、手らしきものがついた黒い立方体が置かれている。
「では、サトウくん、簡単に新商品を紹介して」
サトウが立ち上がった。
「これはラジオではございません。テレビでもございません。大工道具でもございません。ペットでもございません。生き物でもございません。食べることはできません」
オレはあきれて、ヨシダに耳打ちした。
「なんだったらできるんだよ」
「履歴書を書くのはうまいな」
「それだけか」
「女子社員が試したらストーカーを撃退してくれた」
「ふうん」
「万能すぎて、正直、よくわからんのだ」
オレは手を挙げて発言した。
「「できるくん」はどうですか」
あたりがざわめいた。そうか、そっちから考えたらよかったのかというつぶやきが聞こえてくる。それ以外、どこから考えるんだよ。
足が生えて、新商品がオレのもとに歩いてきた。
「よくできました」
と言って、ぽんとおでこを叩く。
桜のマークとよくできましたのスタンプが押された。
(了)
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