【ショートショート】メインのあとで

　甘ったるい匂いがテーブルに広がった。
　注文タブレットで「デザート」ボタンを押したら人形が歩いてきたのだ。
　全身お菓子。
　驚きのあまり息子は目を見開いだが、やがて、
「チョコ食べたい」
　と言った。人形の指はチョコレートでできている。
「どうぞ」
　と人形は言って、腕を差し出した。
　息子が右手の親指をポキッと折る。
「痛くない？」
「大丈夫ですよ」
　人形は上着をぺろりとめくっておなかを出した。
「和菓子はこちらになっております」
　あんこに目がない妻は人形のぷっくりと脹らんだおなかを掴む。
「あ、大福だ」
「こちら、イチゴ大福になっております」
「うれしいー」
「ご主人様は、なにがよろしいですか」
「あ、そうだな。スコーンはあるかな」
「お目が高い」
　というと、人形は肋骨を外し、内臓を剥き出しにした。
「心臓をお取りください」
「ええー」
「クリームは膵臓のなかに入っております」
　私は皿にスコーンとクリームを取った。
「ありがとうございました」
　というと、お菓子人形はぎくしゃく歩きながら厨房へ戻っていった。

（了）

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