見出し画像

【ショートショート】知恵の輪

「あと二キロで竹橋ジャンクションだって」
「サンキュー」
 と言ったが、その標識はオレの目にもしっかり入っている。
 竹橋ジャンクションが近づいてきた。
 オレは首都高速五号池袋線に入ったつもりだったが、様子が違う。
「変だな」
「そうかい」
 助手席のツレは免許を持っていないので、道路情報には疎い。
 そのまま走っていると、練馬を通り過ぎ、和光市に入った。
「どんどん東京から離れていくなあ」
 スマホの地図ソフトを眺めていたツレは、
「埼玉環状線に入ったみたいだな」
 と言った。そんな環状線あったっけ。
「もうすぐさいさまジャンクションだ」
「いったん高速から降りるか」
 さいたまジャンクションを出ても遮音壁の光景が続く。ずっと首都高速を走っている気分だ。別の高速環状線に乗り入れてしまったらしい。
 夜が更け、朝日が昇りだした。景色はまったく変化を見せない。オレはさすがに疲れてきて、岩手県の酒田パーキングエリアで長時間の休憩をとった。東京に戻ろうとすればするほど離れてしまう。まるで知恵の輪のように高速環状線がリンクしているのだ。
 こうなったら仙台を経由して東京に戻ろう。そう思って運転を再開したが、ますます道路は入り組んでくる。高い遮音壁のせいで、いま、どのあたりを走っているのかまるでわからない。
 標識の地名も「a-34」などと記号めいたものになってきた。
 ツレはスマホの画面を見つめて額に汗をかいているが、オレを苛立たせたくないのか黙っている。
 もうこのままずっと高速から降りられないのではないか。そんな諦めの気持ちで走っていたところ、三日目に急に視界が開けた。大都会だ。
「ここはどこだ」
「北京だ」
 とツレが叫んだ。

(了)

目次

ここから先は

0字
このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。

朗読用ショートショート

¥500 / 月 初月無料

平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。