【ショートショート】ゆっくり
背中の痛みで目が覚めた。
身を起こすと、尻のあたりが差すように痛い。
そのままベッドから身を起こし、床の上に立つと、足の裏から痛みが伝わってくる。
目をこらしてよくみると、ベッドも床もギザギザしていた。ノコギリの歯のような小さな三角が連続しているのである。
ギザギザの時計を見ると、ギザギザした短針が六時を指していた。
ドアのノブもやはりギザギザしている。私はハンカチで包み、ゆっくりと回して部屋の外に出た。ウサギのスリッパは柔らかいので、ギザギザしていても痛くはない。
父母はすでに起きているらしく、一階から朝食を用意する音が聞こえてくる。父はいつものように新聞を読んでいるのだろう。
私は用心しながら、階段を降りた。
父は新聞から目を離し、
「おはよう。あれ、おまえ、丸いな」
と言った。
父は髪型から皮膚まですべてギザギザだ。
母がキッチンからトーストと目玉焼きとトマトを載せた皿を運んできた。皿は縁もギザギザ、底もギザギザ。だが、それを置くテーブルもギザギザしているので、ギザギザ同士がぴったりとはまって安定する。
「とりあえずご飯を食べなさい」
トーストも卵焼きもトマトもギザギザしていたが、食べてしまえば変わりはない。
「あなたはなんでもスロースタートだからね」
そういう問題だろうか。
靴はどれもギザギザしていて、痛くて履けない。
「学校休もうかな」
「そのくらい我慢しなさい」
私はギザギザのリュックを背負って学校に向かった。
道路はギザギザしているが、バスのタイヤもギザギザしているので、問題はない。
学校に到着した。
「おはよう」
友人の平井が声をかけてきた。
「おはよう」
「思ったとおりだ、やっぱり猫田は丸いや」
「不便だぜ、ひとりだけ違うのは」
「大丈夫大丈夫。猫田はいつも適応が遅すぎるだけだから。爪をみてみ」
自分の爪をみると、先っぽがギザギザしていた。
(了)
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