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【ショートショート】安眠の儀式

 安眠装置を買った。
 ベッドに横たわり、眼鏡をVRモードに切り換える。
 ぼわっと牧場が浮かび上がる。
 何匹かの羊があたりの草を食んだり、ゆっくりと歩いたりしている。
 牧場は低い柵に覆われ、隣の牧場へと続いている。
 のどかな景色だ。
 ぼくは牧草の上に腰を下ろし、眠りの儀式が始まるのを待った。
 きっと羊たちがあの柵の上を飛び越えていくのだろう。ぼくは眠りに落ちるまでその数を数え続けるのだ。
 だんだん羊の数が増えてきた。
 サフォーク種というのか、顔と手足が黒いタイプの羊である。
 最初はのんびりとくつろいでいた彼らが、だんだん苛立ちはじめた。
 ぼくに近づいてきて、角でつんつんと肩をつつくものもいる。
 期待に満ちた視線。
 え?
 ひょっとして飛ぶのはぼく?
 ぼくは軽く助走して、柵を跳び越えてみた。
 柵の向こうにも顔の黒い羊たちがいた。
 元の牧場に戻ってくる。
「モットヤレモットヤレ」
 と声が聞こえた。
 ぼくは必死に柵を飛び越え続け、気がつくと朝だった。

(了)

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