【ショートショート】汚染

　空飛ぶ車の中で、
「故障かもしれません」
「故障かもしれません」
　と部下Aが言い、部下Bも同じことを言った。
「自己診断せよ」
「オールグリーン」
「オールグリーン」
「大丈夫だな」
「故障かもしれません」
「故障かもしれません」
　上司は頭を抱えた。部下たちの電子頭脳のなかでなにか矛盾が発生している。精密検査が必要だ。
　これから先方に見せる資料を部下Aが持ち、念のため部下Bがバックアップしていた。こんなことなら部下Cも連れてくるのだった。
「では、資料を私にバックアップしてくれ」
　上司は部下Aに対して接続許可を出したが、途中で打ち切った。
「マルウェアが混入している。駆除作業開始」
　上司は吐き気に耐えつつ命令した。
「部下A、部下Bは強制シャットダウン」
　ふたりはくたくたと座席から滑り落ちる。
　上司は行き先を変更し、近くの公園に車を下ろした。緊急トイレに駆け込み、資料を吐き出す。先方に断りを入れて、車を会社に向けた。
　いや、このまま会社に入るのは危険だな。
「汚染ランクC。検査依頼」
　車は自動的に工場のメンテナンス部門に到着した。
　上司は、
「強制シャットダウン」
　と自分に命令を出し、意識を失う。
　その後、彼らの姿を見たものはいない。

（了）

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