【ショートショート】境い目、破れて
トントンとノックの音がした。
ドアを開けると川崎くんが入ってきた。
長身だと思っていたが、いま見るとそうでもない。
「急に会いたくなってね」
「わざわざ来てくれたのか」
「そうだよ。新幹線に乗って」
「わざわざ」
「わざわざ。いまは肉体があるから飛んできたりはできない」
川崎くんは中学のときの親友である。学校にだんだん来なくなったと思ったら、亡くなった。癌だった。もともと白い肌がすごく白くなっていた。
「五十年ぶりか」
「死んでいると時間の経過がよくわからなくてね」
「元町のうどん屋はまだあるのか」
「ないよ」
川崎くんは笑った。
「五十年だぞ。父さんも母さんもとっくにこっちに来ている」
川崎くんは三日間、私のアパートに寝泊まりし、二人で銀座にプラネタリウムを観に行ったりした。
「生死の境がとても薄くなる時があるんだ」
と彼は言った。
「じゃあまた来てくれるかい?」
「君がまだ生きていたらね」
東京駅まで見送りに行った。
川崎くんの顔が動き出し、あっという間に消えた。アナウンスの声やベルの音が急に大きく聞こえだした。
(了)
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