見出し画像

【ショートショート】シン・マジックインキ

 デパートの文具売り場に「シン・マジックインキ」全二十四色セットが並んでいる。
 立ち止まって眺めていると、店員が近づいてきた。
「ご興味がおありですか」
「息子へのプレゼントを考えていてね」
「こちら、人気商品でございます。マジックインキはなににでも書けて消えない点が特徴ですが、こちらはその点をさらに突き詰めた商品でして、ほんとにどこにでも書けるんです。たとえ空気にでも」
「あっ」
 と私は叫んだ。
 つい先日、犬の散歩をしていたときのこと。いつものように犬はお気に入りの金木犀の木に近づいていった。ところがその手前になにか黒いものがふわふわ浮かんでいる。
 「ここで犬に小便させるな」という文字が、私の着ているTシャツとズボンに吸着した。
 家に帰ってすぐ洗濯したが、どうしてもとれない。ごみ箱行きだ。
 小学生にもたせるものではない。
 私は当たり障りのないロボットのおもちゃを買って帰宅した。
 トイレにたつと、息子がドアの前に落書きしていた。これはもしかして。
「おい、なぜマジックインキを持っているんだ」
「おばあちゃんがくれた」
 私はあわてて、息子からシン・マジックインキを取り上げた。空中の「うんこ」の文字は息子のおでこにぴたっと吸着した。
「おい、これでおまえは一生、うんこ男だぞ」
 びえーっと息子は泣き出したが、どうにもならない。

(了)

目次

ここから先は

0字
このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。

朗読用ショートショート

¥500 / 月 初月無料

平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。