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【ショートショート】すこし足りない

 私は鍵を使って玄関を開け、
「ただいまー」
 と奥に声をかけた。
「おかえりなさいー」
 とリビングのほうから声が聞こえた。
 私は靴を脱ぐため、下を向いた。玄関が妙なことになっていた。
 靴がみっつある。妻の靴も子どもたちの靴もみっつずつ。
 リビングに入ると、空気が凍った。
 子どもたちは、
「ぎゃーっ」
 と叫んで逃げていった。
「あなた、足をどうしたの。怪我? それとも落としてきたの?」
 妻が蒼白な顔できく。
 妻も子どもたちも当然のように三本足であった。
 私はとっさに嘘をついた。
「ちょっと会社で問題があってね。医務室に預けてきたよ」
 妻はホッと胸をなで下ろし、
「そういうことは早く連絡して頂戴」
 と言って、キッチンから晩飯を運んできた。
 用心深く眺めたが、ふつうのごはんであった。なすと挽肉の挟み揚げ。生野菜のサラダ。味噌汁にごはん。
 味もいつもと変わらない。
 おかしいのは足の数だけである。
 翌日。出勤風景を眺めると、二本足の人と三本足の人が半々くらいの割合でいた。どうしていままで気づかなかったのだろう。
 私は医務室に行き、義足を取り付けてもらった。

(了)

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