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【ショートショート】ぼくの貯金箱

「今日はなにかいいことがありましたか」
 寝室に入ると、サイドテーブルに置いてある小さな円錐形の機械がたずねてきた。
 風呂に入って寝間着に着替えところで、頭はぼーっとしている。
 ぼくは今日一日を振り返った。
 平凡な一日だったなあ。
 とくにおいしいものを食べた記憶もないし、仕事でいいことがあったわけでもない。
「あっ」
「なんでしょう」
「今日、散歩したとき、信号にひとつもひっかからなかった。ぜんぶ青信号だったよ」
「それはすばらしい」
 チャリーン。
 貯金箱にうれしさが保存された。
 考えてみれば、一日にひとつくらいはなにかしらうれしいことが起こっている。あまりにも小さいので、忘れてしまうだけだ。
 この機械、保存はできるが、再生ボタンはついていない。
 いつか必要だと判断したときに再生してくれるという。
 その日を楽しみに、ぼくは毎日、ちいさなうれしさを溜めている。

(了)

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