【ショートショート】分岐
朝ご飯を食べ、歯を磨いてからランドセルを背負い、二階のガラス戸を開いた。
ベランダには連絡通路が三つある。
右側はお父さん、真ん中はお母さん、左側がぼくの通路だ。
鍵がかかっているので、勝手にお父さんやお母さんの通路を通ることはできない。
ぼくは自分の鍵を取り出し、通路を通って学校に向かった。
学校からは四つの大きな通路が張りだしている。校区を四つに分け、生徒の家へと分岐しているそうだ。
小五にもなって、ぼくには放課後に一緒に遊ぶ友だちがいない。ぼくの連絡通路は学校と家の一本だけだ。クラスの子たちの話を聞いていると、彼らの連絡通路は途中で分岐し、友だちの家や習い事の先生につながっているという。
そういう話を聞くとすこしさびしくなるが、ぼくには家で本を読んだり、テレビを観たり、詰め将棋をしているほうが似合っている。それは自分でもわかるんだ。
ある日、休み時間にポータブル将棋盤で詰め将棋をしていると、同じクラスの谷崎くんが声をかけてきた。
「将棋できるの」
「うん。お父さんに教えてもらった」
「ぼくも。やってみようよ」
お父さん以外の人と将棋を指すのははじめてだ。ドキドキした。
ぼくたちの腕は似通ったものだった。勝ったり負けたりした。実際に勝負をしてみると、ひとりで詰め将棋をするのが急に詰まらなくなった。
ぼくらは学校で時間があると将棋を指した。
ある日、気がついたら、連絡通路の途中にドアがついていた。ドアをあけて進むと、谷崎君の家だった。うれしくて、
「お父さん! 通路が分岐したよ。谷崎くん家につながった」
と叫んだ。お父さんも喜んでくれた。
「どうしてぼくと谷崎くんが友だちだってわかったんだろうね」
「学校で将棋を指していたんだろう。先生が連絡省に報告したんじゃないかな」
「連絡省?」
と聞き直すと、お父さんはちょっと暗い目をした。
「人間関係を管轄している役所だよ。連絡省が連絡通路を作っているんだ」
(了)
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