【ショートショート】舌が止まらない
子どもがだんだん生意気になってきた。
今日もおもちゃを片付けないままご飯を食べにいこうとするから、
「こらっ。片付けなさい」
と叱ったら、アカンベーをした。
まぶたを引っ張って赤目を見せ、思い切り舌を出す。
にょろにょろと健康そうな赤い舌が伸びる。
だらりと垂れて、まだ伸びる。
オレは驚いて、
「大丈夫かっ」
と叫んだが、子どもは飛び出した舌が邪魔で声が出ない。
舌は膝小僧あたりまでびろんと伸びて、ようやく止まった。
まるで妖怪である。
無理に戻したら、窒息して死んでしまいそうだ。
オレは内科医に電話して、急遽往診に来てもらった。
先生も一目見て唖然としている。
「こんな症状は見たことがありません」
「病気ではないのですか」
「いやあ。なんとも。大学病院に連絡しておきますから、すぐ検査してもらってください」
いくら精密検査しても、原因は特定できない。食事もできないので、点滴で栄養を入れた。
子どもはだんだん衰弱していく。
オレは鍼灸の本を買ってきて、舌に関係していそうなツボを押してみた。手首の下にある「通里」という部分を押してみたらあら不思議、まるで掃除機のコードの巻き取りのように、するすると舌が口の中に戻っていった。
子どもはきょとんとしている。
「いいか、もう二度とアカンベーなんかするんじゃないぞ」
というと、子どもは何度も激しくうなずいた。
(了)
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