【ショートショート】ナイスアイデア
オレはトマトだ。
まだ青いときに収穫され、コンテナと倉庫のなかでだんだん赤みを増していき、完熟したところでスーパーに並んだ。
そりゃあね。
オレだって人間に生まれてきたかったけど、まあ、なにごともそううまくはは運ばない。今回はトマトでいいだろう。次は人間になりたいな。
ああ、奥さん、はじめまして。
そうそう、水洗いは大事ですぜ。
で、オレをどう調理なさるんで?
ああ、サラダ。まあ、そうだよね。なんたってトマトだしね。
えっ。半分しか使わないの?
オレは半身を切り取られ、ラップに包まれて、冷蔵庫にしまわれた。
それから毎日待っているけど、だんだん冷蔵庫の奥に、奥にと追いやられていく。
おーい。いくらラップに包んでいるからって、ずっと持つってもんじゃないんですぜ。
ほら、もう完熟しすぎてぐちゃぐちゃだ。
ある日、奥さんがようやくオレのことに気づいた。
「あら、やだ」
やだじゃない!
奥さんはオレを三角ゴミ箱に捨てようとしていたが、小学生の男の子がやってきて、
「お母さん、古いトマトはスープにするとおいしいって先生が言ってたよ」
と言ってくれた。
「それはいいわね」
「卵トマトスープが飲みたいな」
「じゃ、さっそく作ってみるね」
名前も知らないけど、君のおかげでオレはぶじ成仏することができる。
ありがとう。
君はきっと尊敬されるような料理人になるよ。できれば、その店に食べにいきたいな。さようなら。
(了)
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