【ショートショート】応急処置
「ごめんくださいませ」
「どなたですか」
「ヤマト不動産から派遣されてまいりました雨漏り対策ロボットです」
ようやく来てくれたかと思い、私はアパートのドアをあけた。
目の前に阿修羅像のようなロボットがいた。肩から腕が何本生えていることか。
「おじゃまします」
ロボットは部屋のなかに入ってきた。
「状況を把握します」
六畳の部屋の中央に立ち、センサーを動作させた。
「八箇所からの漏水が認められます」
「修理をお願いできるかね」
「いいえ」
簡単に拒否されてしまった。
「わたくしは迎撃専用に設計されております」
ロボットは何本もの腕を上げた。なかには途中から腕が二本に分かれているものもある。いずれの腕も先頭にはカップが取り付けてあった。
ぴしゃん。ぴしゃん。
雨だれはすべてカップのなかに吸い込まれていく。本体に装備されたタンクの中に貯水されるのだろう。
その場凌ぎにもほどがあるが、なにも対応されないよりはマシか。
私は一時間ほど膝を抱えて、ぼーっと雨漏り対策ロボットを眺めていた。
「コーヒーでもいかがですか」
とロボットが言った。
「まさか雨水を飲めとでも?」
「浄水機能を備えておりますのでご心配なく」
私はロボットのおなかにあるブレンドコーヒーのボタンを押した。
紙コップに黒い液体が注がれていく。
コーヒーを飲みながら、しばらく本を読んだ。
雨脚はますます強くなるようだ。ロボットは時々腕を分岐させ、新しい雨漏りにも即座に対処した。
「じゃあ、オレは寝るから」
と私は言った。
「おやすみなさいませ」
雨は一晩中降り続いたようだ。
「おはようございます。コーンポタージュスープはいかがですか」
「なんだか悪いね」
「いいえ、サービスでございます」
会社から戻ってくると、部屋中にロボットの腕が分岐していた。
「だいぶ苦戦しているようじゃないか」
「いいえ。この程度、なんでもございません」
屋根を修理するほうが早いと思うんだけどな。大家というのはどうしても屋根を修理したくないものなのだろうか。
(了)
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