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aha33
【ショートショート】そっくりさん
残業で遅くなってしまった。
私は鞄から鍵を取り出し、しずかにドアを開ける。
リビングルームにはいって、目の前の光景に凍りついた。
妻が男にビールを注いでいる。男は私にうり二つだ。
これはいったいどういう状況だろう。
彼らも私に気づいて、妙なものを見たという顔をする。
そのとき、
「おそくなってごめんー」
と言いながら、女が入ってきた。
「はい、おみや。えっ」
女は妻に似ている。いや、妻なのかもしれない。
「これはどうしたことだ」
「あなたなの?」
と隣の女が聞く。
「おまえこそおまえなのか」
女はうなずく。
ソファのふたりは立ち上がる気配を見せない。このまま団欒を続けるつもりのようだ。
「警察、呼ぼうか」
と妻らしき女がいう。
「やめておこう」
よけい話がややこしくなりそうだ。
私たちはマンションを出て、ホテルに泊まった。
次の日、喫茶店で待ち合わせて、おそるおそるマンションの部屋に戻ると、誰もいなかった。
「昨日のあれはなんだったんだ?」
「蜃気楼みたいなものかしら」
と言いながら、妻は缶ビールを取り上げた。
私はグラスを差し出す。
そのとき、私にそっくりの男がリビングにはいってきた。続いて女も。
私たちは顔を見合わせ、団欒を続けた。
それから、ずっと部屋の取り合いが続いている。私が私であることはわかるが、ビールを注いでいる女が妻であるかどうか、正直いってよくわからない。
(了)
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