【ショートショート】おんぶ屋
大きな道路が交差する四つ角で信号待ちをしていた。
隣でだいぶ腰の曲がったおばあさんが、
「はあ」
とため息をついている。
「どうしたんですか」
「いつも渡りきれなくてなあ。クラクションを鳴らされてつらいんじゃ」
信号が青に変わった。
私は腰をかがめて、
「どうぞ」
といった。
おばあさんを背負って道路を渡った。
「ありがとう。助かったよ」
というと、おばあさんは私の手に百円玉を握らせて、よぼよぼと去って行った。
知らないおじいさんが私の腕をとんとんと叩いた。
「わしもお願いできませんかな」
「えっ」
結局、また元の場所に戻ることになった。おじいさんも百円くれた。
それを見ていた若い女性が、
「私も」
と言い出した。左足を骨折しているらしく、松葉杖をついている。断るわけにはいかない。
その日私は交差点の往復ばかりして、とうとう会社に行けなかった。そのかわり、ポケットいっぱいの小銭がたまった。
こんなに交差点を渡れないひとがいるなんて、信号機の設定がバグっているに違いない。
次の日、交差点に行くと、昨日のおばあさんがニコニコしながら待っていた。
(了)
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