【ショートショート】おいしい牛丼
AI冷蔵庫を買った。
適当に買った食材をしまっておくと、レシピを提案してくれる。
「麻婆豆腐丼はいかがですか」
「気分じゃないなー」
「では、五目焼きそば」
両面開きの扉の中央にあるウインドウにおいしそうな料理の写真が表示される。
「肉系がいい」
「肉の在庫がありません」
「そうかあ」
と私は肩を落とす。
「買い物に行きましょう。いまなら肉の島崎の営業時間内です」
きゅるきゅると音をたてて車輪が動き出した。
私は玄関をあけて冷蔵庫に同行する。
移動式の家具が増えてから、歩道の幅はかなり拡張された。ソファに寝転がったまま道を移動しているおじいさんとすれ違う。
商店街に到着すると、大小さまざまな家電が闊歩していた。
冷蔵庫は肉の島崎の行列に加わり、本日のご奉仕品情報を精査している。
「今日は牛の切り落としがお得です。豪華牛丼はいかがですか」
「いいね」
買った商品はすぐ冷蔵庫にしまえばいいので、エコバッグいらず。
高野青果店にも寄って、玉ねぎと紅ショウガを購入する。
「お疲れさまでした」
と自宅の定位置に戻った冷蔵庫はいう。
「ではさっそくチルドルームから牛切り落としを取り出してください」
私はキッチンに立って、料理をはじめる。手順はウインドウに表示されるので、初心者にもやさしい。
熱々の牛丼が完成した。
「紅ショウガを散らしてください」
と冷蔵庫が言った。
(了)
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