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【ショートショート】笑うキツツキ

 庭の松の木にキツツキが来た。
 ものすごい勢いで頭を振り、幹に穴を開けていく。
 うちの松のどこを気に入ったのか、仲間を呼んできた。どんどん穴が増えていく。おじいちゃんが生きていたら卒倒したかもしれないけど、私は庭の草木にあまり興味がないので平気だ。
 珍しい光景だと思って眺めている。
 ある日、玄関のベルが鳴った。
「キツツキ不動産の穴子と申します」
 とスーツ姿の男が言った。
 この土地家屋を購入したいという話である。私は死ぬまでこの家に住みたいので、話し合いは決裂だ。
 穴子は何度もやってきた。
「いくら頑張っても、そのうち売る気になりますよ」
 といやなことを言ってニヤリと笑う。地上げという言葉が頭に浮かんだ。
 庭にやってくるキツツキの数が増えた。
 松の木は倒れ、ほかの木も穴だらけ。
 やがて、キツツキたちは家の壁まで穴をあけはじめた。
 おいおい、そんなところに虫はいないよ。
 と言ってやりたいが、鳥に言葉は通じない。
 リフォーム会社に頼んで壁を作り直してもらったが、またすぐにキツツキたちが穴をあけてしまう。いたちごっこだ。
 恨みがましげににらむ私を振り返り、一羽のキツツキがにやりと笑った。
 どこかで見かけた表情だ。
「どうですか」
 と穴子が言った。
「いまならまだ高値で買いますよ」
 私は根負けして、売却に同意した。
 穴子はにやりと笑った。それから二度とキツツキたちはやってこなかった。

(了)

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