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snafu_2020
【ショートショート】濡れない方法
彼女と公園に花見に来た。
空は薄曇りというより黒雲に近い。
「梅は天気がよくなくても風情があるね」
と坂道を歩きながら彼女がいう。
「あ、このあたり」
私は梅を写真に撮りながら答えた。
「なに?」
「紅白の梅が交じり合ってていい感じ。写真を撮ろう」
彼女はマスクを外してポーズをとった。何枚か撮影したところで、ぽつ、ときた。
地面がみるみるうちに黒く染みていく。
私はあわててリュックから折り畳み傘を取り出した。
「たいへんたいへん。服が濡れちゃう」
横をみると、彼女が上着を脱いでいる。そのままジーンズも脱ぎ、下着にまで手をかけた。
「おい、なにしてるんだよ」
「えっ」
と彼女は私の顔をみた。
「雨だから服をしまっているんだよ」
「意味がわからない」
「私は防水加工しているからいくら濡れても平気だけど、服は防水じゃないから」
まわりを見回すと、老いも若きも、バタバタと服を脱いでバッグやリュックにしまっている。銭湯みたいな光景だ。
私だけがぽつんと黒傘をさしている。
自然と声が小さくなった。
「ほんとに大丈夫なの」
「平気だよ」
彼女の髪に触れてみた。たしかに濡れていない。きれいに撥水している。
裸の彼女とざあざあ降りの道を歩き、バスに乗った。
混雑している車内で服を着ているのは私だけだった。
(了)
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