【ショートショート】ゆるい喧嘩
新宿大久保公園特設会場は、暑かった。
夏の熱暑日にゆるキャラショーをやること自体が間違っている。
ドツボくんの着ぐるみをかぶると、一段と暑さが増した。
ドツボくんは、ドツボ株式会社の公式キャラクターである。どういう会社なのかは、よく知らない。
ドツボくんは人型のキャラだが、色がなんともいやな感じに茶色い。
どん、と後ろから誰かがぶつかってきた。キャベツのゆるキャラだ。
キャベツ野郎は謝りもしない。
オレはむっとした。
ドツボパンチ。
のびをするふりをして殴ってやった。
まんまるのキャベツは、ころころと転がった。ざまあみろ。
まるでボーリングのピンのように、そこら中のゆるキャラが倒れていく。
喧嘩が始まった。
「みなさん、落ち着いて落ち着いて」
係員がやっきになっているが、みんな苛ついているから、誰もいうことを聞かない。
オレも乱闘騒ぎに加わった。
いつの間にか舞台の上に押し出されていた。オレたちはあいかわらず喧嘩をしている。
喧嘩といっても、ふわふわした者同士だから格闘にはならない。外からはじゃれ合っているように見えるかもしれない。
客席から「わー」と応援の声が飛んでくる。
オレはガッツポーズを決め、キャベツ野郎をぼすぼすと殴った。
司会者は困っていたが、やがて実況をはじめた。
ノックアウトされたゆるキャラは舞台から脱落していき、少数精鋭が残った。
オレも頑張ったが、もっと強いやつがいた。げんこつくんである。ゆるキャラには指がないからげんこつはにぎれない。でも、げんこつくんは全身がげんこつの形をしており、どどどと固い体でつっこんでくるのだ。オレははじき飛ばされてしまい、舞台からおっこちた。
第一回のゆるキャラプロレスはげんこつくんが優勝しておわった。
とっぱらいのギャラをもらって解散。いつもの十倍疲れたイベントだが、精神的にはすっきりとした。
(了)
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