【ショートショート】猫みがき
マモルの趣味は猫みがきだ。
サイドテーブルの引き出しから特製ヘアブラシを取り出して、ソファの上でぴーすけの毛を梳いてやる。
ぴーすけは野良猫の里親から譲り受けたさび色の雄猫である。今年で八歳になる。人間でいえばナイスミドル。まだまだ元気だが、あまり愛想はない。
里親はちび猫には大袈裟すぎるほどのヘアブラシをおまけにつけてくれた。
毛を梳いてもらっているときのぴーすけは瞑想しているかのように目をつむり、前足を揃えてじっとしている。三十分も毛を梳いていると全身がつるつるになり、一時間もたった頃にはきらきら輝いてみえる。
毛玉は驚くほど大きくなる。
ヘアブラシのせいだ。細い針金の先に特殊な加工が施されており、発毛を促す効果がある。毎日毛を梳いても次の日にはまた新たな毛玉ができるのはそのせいだ。
ぴんぽーん。
玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けると、
「こんにちはー」
と言って、中年の男性が入ってくる。仕草が猫っぽいので、マモルは彼のことを猫男と名付けている。
「どうも」
「どうですか、今週は」
「順調ですよ」
マモルは、毛玉を集めた箱を猫男に渡す。猫男は猫の抜け毛を専門に扱う商人だ。特製ヘアブラシは彼の発明である。
買い取った毛は、コスプレの衣装作りに使うらしい。猫コスプレは根強い需要があり、ホンモノの毛を植えた服は高値で取引される。
マモルは毛玉の代金でぴーすけに質のいいエサを買ってやることにしている。
「おまえは食い扶持を自分で稼ぐから偉いなあ」
(了)
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