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【ショートショート】塩少々

「ただいま。誕生日おめでとう」
「あら。覚えていてくれたの」
 と妻は驚く。
「もちろんだ。これが誕生日プレゼントだよ」
 と言って、夫は昼間届いた大きな荷物を指差した。
 段ボール箱の中身は家事ロボットだった。夫はマニュアルを読む。
「電源スイッチ、オン」
 ロボットの目が光った。
「塩を持って来てくれる?」
「塩?」
 妻は不思議に思いながらも塩壺を持って来た。
「ここに書いてあるんだ。塩少々って」
 夫は親指と人さし指で塩を摘まんでロボットに振りかけた。
 ロボットは起動した。
「まずは料理だな」
 といってロボットをキッチンに案内し、冷蔵庫や食器棚を教え込んでいる。
 しばらくしてロボットは調理を始めた。
「こいつは家事全般なんでもできるけど、とくに調理が得意なんだって」
 前菜が出てきた。
「まあ、おいしい」
 妻の気分は上がった。達夫がワインをあける。
 楽しい夜がふけ、次の朝。
 家事ロボットは夫婦がごそごそと朝の支度をしているうちに、さっと料理を仕上げた。朝は簡単にベーコンサラダとチーズトーストとコーヒーだ。
 妻は昨夜のおいしい料理を思い出し、期待しながらコーヒーを口を含んで、
「うっ」
 といった。味が薄い。
 夫はトーストをかじって、
「うっ」
 といった。焦げている。
「どうしたのかしら。ロボットにも不調ってあるのかな」
「あっ」
 夫は食卓の塩をロボットに振りかけた。
「忘れていたよ。これをしないとうまく作動しないんだ」

(了)

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