【ショートショート】基礎工事
いつの間にかお隣の家が更地になり、新築工事が始まった。
始まったのはいいが……終わる気配がない。
半年たったが、まだ穴を掘っている。
現場の人はみんな外国人で、日本語が通じない。どこかわからない国の言葉でやりとりをしている。
工事が始まって一年ほどたった頃、偶然、現場監督らしき日本人に出くわした。
ここぞとばかりに質問する。
「ずっと穴を掘っているんですか」
「はい。そうです。まだ基礎工事の段階です」
「騒音がうるさかったんですが」
「いまもですか?」
「いや、いまはほとんど聞こえてこないですけどね」
「そうでしょう」
「あとどのくらいで完成するんですか」
「それはちょっと……」
口を濁された。
「地下室ができるんでしょうか」
「いえ、床下が大きいだけで、地下室はありません」
「これだけ深い穴なのに床下って……」
三年経過したが、まだ穴を掘っている。
いったいどんな床下を作るつもりなのか。
隣の穴掘りがすっかり日常に組み込まれてしまった頃、ようやく工事が止まった。
しかし、今度は、毎日のようにトラックがやってきて、謎の物質を流し込むようになった。まるで埋め立てだ。
「なにをしているんですか?」
「基礎工事です」
また何年も時間が経過し、穴はすっかり塞がった。土地はコンクリで固められた。
長い時間をかけて、結局、なにもできなかったことになる。
空き地には、立ち入り禁止の札が立っている。
近所の人は、幼い子どもたちも含めて、誰も出入りしない。
最近、歯抜けのように、こうしたコンクリの空き地が増えている。
(了)
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