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【ショートショート】かわいい尾行者
「さて、そろそろ昼飯にするか」
医療ベンチャーを立ちあげたイツミ会長は、高層ビルの窓から都心を見下ろした。
秘書はボディガードを連れて、車を正面玄関に回す。
ガスト六本木店に到着した。
会長は席について、タッチパネルでハンバーグ定食を注文した。
やがて猫型のロボットが注文の品を運んできた。中国企業が作った配膳ロボット「ベラボット」である。
頭をなで、
「うれしいにゃー」
とベラボットが喜ぶと、会長は相好を崩した。
ベラちゃんがお気に入りで、ガストに足を運び続けているのである。
カウンターに戻っていったベラちゃんはピンと右耳を立て、こちらに聞き耳を立てている。そのことに気づいたボディガードが秘書に耳打ちし、秘書が会長にささやいた。
「それがどうした」
「尾行用に改造されている危険があります」
「聴かれて困る秘密はない」
と会長は言い切った。
一行は会計を済ませ、外に出る。ベラちゃんも付いてきた。
車のあとを一生懸命追いかけてくるが、速度がぜんぜん追いつかない。
「かわいそうだ」
会長は車を降りてしまった。
ゆっくり歩いていると、ベラちゃんが追いついてきた。
ふたりはエレベーターに乗って、最上階の部屋に戻る。
「コーヒーが飲みたいな」
と会長がいうと、ベラちゃんは扉を開け、秘書に、
「コーヒーをひとつお願いするにゃ」
と命令する。
ベラちゃんは開発会議にも出席する。
「開発状況を報告したまえ」
部下が躊躇していると、会長は、
「我が社の技術は、後追いできるほど単純なものなのか」
と一喝した。
ベラちゃんは任務を遂行することができ、幸福であった。ニコニコ顔をすると、会長も機嫌がいい。
開発した認知症の新薬はすぐに中国から後追い製品が出たが、
「これは世界が必要としている薬だ」
と言ってまったく動揺しなかった。
(了)
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