【ショートショート】 自動タクシー
夜も更けた銀座三丁目。
タロウは、タクシーが走ってくるのを目にとめ、大きく右腕を振った。
タクシーはぴたりとタロウの横に止まり、後部ドアが開いた。
無人タクシーだ。
「いずこへ」
という人工音声が聞こえた。
タロウは自宅住所を告げた。
「時間はどのくらいかけますか?」
妙なことを聞くなあ。
「五十分もあれば着くんじゃないの。それとも渋滞してる?」
「いえ、では、五十分でセットします」
「あ、ちょっと待って。時間を自由にセットできるの」
「はい」
「じゃあ三年」
むしゃくしゃしていたタロウは、あらゆるものから逃げたかった。
「セットしました。発車します」
タクシーは走り出した。
日本を周遊し、大きな船に乗って海外にわたった。
三年ぴったりで自宅前に到着した。
「まあ、あなた、どこへ行っていたの?」
「どこ? まあ、いろいろ」
妻にはその場で離婚届を突きつけられた。会社はクビになっていた。当然だろう。
タロウはふたたび、右手を振ってタクシーを止めた。
「いずこへ」
「どこか私を必要としているところ」
目の前でバタリとドアがしまった。
人工知能にも呆れる感情があるのだと、はじめて知った。
(了)
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