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【ショートショート】夢の通い路

 マンションの十三階。
 ウィスキーのグラスを片手にネット配信のドラマを眺めていると、ドアのチャイムが鳴った。
 時計をみると、午後十一時。
 誰だこんな時間に。
 何度もチャイムを鳴らすので、オレは玄関に行った。
「どなたですか」
「マツダと申します」
「なんのご用でしょう」
「通してください」
「はあ?」
「この部屋を通してください」
「どこにも行けませんよ」
 ドアを開けると、男は廊下を通り、オレがさっきドラマを観ていたリビングの窓を開けて、外に出ていった。
 オレはあわてて後を追いかけた。
 ベランダに男の姿はなかった。
 咄嗟に疑ったのは自殺だ。はるか下の地上を見下ろしたが、人間が落下した様子はなかった。
 それから男は数日置きに通ってくるようになった。
 ほんとはドアを開ける必要もなかったらしい。男はなにも障害物がないかのごとくに私の部屋を通過していく。
「どこへ行くのですか」
 と聞いてみると、
「ここは私の夢の通い路なのです」
 という返事が返ってきた。
 体から遊離した魂のようなものか。
 マツダの存在にすっかり慣れた頃、どーんという重たい音が響いてきた。
 私は警察に呼ばれた。
 私はマツダが自殺であること、この部屋がマツダの夢の通い路であったことを詳しく説明したが、もちろん理解してもらえるはずもなかった。

(了)

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