【ショートショート】店長の背中
オレは背を向けた店長に向かって、アカンベーをした。左目のまぶたを下げ、赤目を見せながら、舌を伸ばしたのである。
一瞬の動作だから誰にも見咎められないだろうと思ったのだが、パートのサトウさんに、
「なにしているんですか」
と呆れられた。
たしかに幼稚な反応である。商品を包むのが遅いとガミガミ叱られて、仕返しにアカンベーをするのは子どもみたいだ。
「サトウさん、包装の仕方教えてくれる?」
「いいですよ」
午後三時。店舗は閑散としている。
オレはサトウさんに教えてもらい、商品を包装する練習をした。
「子どもの頃、よくアカンベーをされていたんだ。そのときは気づかなかったけど、バカにされていたんだよな。オレ、どんくさいから」
「そういうの、残りますよね」
「うん。子どものときのトラウマか、大人になってから無意識にアカンベーをする癖がついちゃった」
「アカンベー負債ですね」
とサトウさんはうまいことを言った。
ある日、サトウさんがそっと耳打ちしてくれた。
「さっき店長がカトウさんの背中にアカンベーをしていましたよ」
ありゃ。あの人も同類だったか。オレは店長に対するアカンベーをやめた。
(了)
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