【ショートショート】無人マンション
「自殺か、殺しか、わからんですね」
とネモトが言った。
「こういうの、増えたなあ」
とホリウチもうなずく。
マンションのなかの一室。高齢者が首を吊っている。
近所付き合いはまったくなし。
家族はおらず、親類縁者との付き合いもなし。
特段の資産はなく、年金が入り出ていくだけ。
ドアの鍵はかかっていなかったから、密室ではない。殺しでもおかしくないのだが、理由がわからない。
結局は事件性なしということで、ふたりは去って行く。
すこし間があいて、また死体が出た。同じマンションだ。
「ここ前にも来ましたね」
「そうだな」
同じことが繰り返され、三十名の高齢居住者がすべて不審死した。
いくらなんでも、この偶然はない。
残ったのは、管理人だけだ。
「犯人はおまえだな」
「なにをおっしゃいます。居住者がいなくなれば、ぼくは仕事がなくなるんですよ」
「それもそうか」
「疑うならオーナーを疑ってください。古いマンションを潰して、新築の高級マンションを建てたがってましたから」
ふたりはオーナーの元に向かうが、アリバイがあった。
「なんだか虚しい未解決事件でしたね」
とネモトが言った。
「ああ、そうだな」
「ぼくは犯人、わかりますよ」
「ほんとか?」
「孤独ですね」
「バカいってんじゃないよ」
ホリウチは否定したが、もうすぐ引退の歳とあっては、自分の暗澹たる未来を想像するしかなかった。
自殺もできないマンションの住人たちが順番に殺し合っていく構図が浮かぶ。しかし、それを証明したところで誰が浮かばれよう。
(了)
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