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中高年の賃金を考える

11月16日の日経新聞で、「もらいすぎ中高年に包囲網 報酬調査「点から面に」」という記事が掲載されました。今後ますます、45歳以上の人材に対して賃金の下方圧力がかかるのではないかという内容です。

同記事を一部抜粋してみます。

~~あらゆる仕事の報酬を調べて統計データとして提供する専門サービスが急伸している。日本の大企業の間にも、仕事の内容によって報酬を決める「ジョブ型雇用」が広がってきたからだ。一人ひとりのスキルや職種の需給に応じた報酬相場は、年功序列で昇給の階段を上がってきた「もらいすぎ中高年」をあぶり出す。労働市場の地殻変動は止まらない。

「賃金テーブルに年功色が残っていては若手の意欲は高まらず、外部の優秀な人材も引き寄せられない」。最近、ジョブ型雇用に大きくかじを切った大手メーカー幹部は断言する。「算定根拠があいまいなお仕着せの賃金は通用しない」

米系の人事コンサルティング会社、マーサージャパン(東京・港)の報酬調査サービス「総報酬サーベイ(TRS)」を契約する日本企業が2021年に300社を超えた。60社余りで頭打ちだった社数は18年以降、一気に5倍に増えた。

これまで日本企業の利用は主要国で最も低調だった。給与が勤続年数や社内キャリアなど人にひも付いて決まるのが標準だったからだ。職務内容が明確でない「総合職」というキャリアとセットで運用され、仕事そのものの市場価値という発想は乏しかった。

だが、状況は一変しつつある。デジタルトランスフォーメーション(DX)などに対応するため、外部から専門人材を機動的に採用しなければならない。経団連が20年夏に会員企業を調査したところ、回答した419社のうち検討や予定を含めて約100社がジョブ型に着手していた。

ジョブ型の広がりは日本企業の中高年にとって試練だ。日米の賃金カーブを比べると、米国は給与水準のピークである45~54歳の中央値が25~34歳より2~3割高い程度。これに対して日本は3~4割ほど高い。米国のようなジョブ型に移行すれば部下のいない名ばかり管理職らの「もらいすぎ」に下方圧力がかかる。20年に賃金体系を刷新した不動産会社は「中高年の中には今後3~4年で給料が3割程度下がる人も出てくる」と明かす。

報酬調査サービスによって職種別の賃金格差が大企業の間で増幅されれば、これといったスキルのない中高年ホワイトカラーは荒波にもまれそうだ。~~

いわゆるジョブ型雇用が広がってきつつあることが、同記事から改めて伺えます。それに関連して、年齢や勤続年数などの要素で決まることが多かった給与テーブルが、仕事の中身で決まる形に変わってくる、よって単に年齢を理由とした給与差もなくなっていく、ということが、今後の傾向として見て取れます。それはそれで、妥当な動きだと思います。

そのうえで、このテーマ・同記事内容については、次の4つの視点で考えてみるとよいと思います。ひとつは、ジョブ型賃金の採用が自社の最適解とは限らないということです。

組織や仕事によっては、明確なジョブディスクリプション(職務記述書)を定義しにくい場合もあります。無理に職務内容を事細かに明記しようとすることで、それ以外のことは「私は担当外なのでやらない」という逆効果を助長する可能性もあります。また、社員の側も、職務記述書の定義に基づいた細かな賃金差分の処遇を求めていなかったり、年功型の働き方を望んでいたりする場合もあります。その会社のビジネスモデルや理念、人事ポリシーなどによって、ジョブ型賃金という方法論も是非は変わってくるはずです。

また、同じ社内でも、職種や業務の特徴によって、ジョブ型賃金の向き・不向きも変わってくるかもしれません。ですので、ジョブ型賃金に移行すべきか否かのどちらかだけの解決方法ではなく、部分的な採用(年功要素と組み合わせる、一部の人材のみに適用する)も合わせて考えていくべきです。

2つ目は、中高年の処遇を下げることを目的化してはならないということです。
同記事中にあるような、「名ばかり管理職の役割・機能程度しか期待できない人材の場合は、名実伴う管理職より処遇が低くなる」などは、妥当な改定だと言えます。他方で、中高年の処遇が一律にあるいは全体的に下がるなどになるなら、目的とずれてしまっているかもしれません。

仮にジョブ型賃金の運用に徹するというなら、中高年でも、リニューアルした基準に沿って再評価したら処遇が上がる、などが必然的に出てきて当然です。あくまで、各人材を是々非々で個別に見ていくべきです。

3つ目は、そもそも日本の報酬水準は低いということです。
同記事では主に米国と比較しながら日本の賃金体系の現状を説明していますが、日本企業全体の賃金水準は、どの年齢層をとっても米国の水準以下です。根本的に全従業員の賃金を上げていかなければならないのが私たちを取り巻く環境の基本的な現状、その中での賃金改定、という認識をもっておく必要があります。

加えて、価格は需要と供給に影響を受ける面があります。職務内容、負荷、難易度等の大きさでレーティングし、そのスコア結果に基づいて賃金を決めるジョブ型賃金は、合理的です。しかし、その結果算出された賃金の仕事を誰もやりたがらなかったら(=労働者側の需要がなかったら)、それに当てはめられた人は辞めてしまい、後任も現れないということもありえます。

今日本で最も人気のない階層・役割(職種という言葉は当てはまらないかもしれません)は、中間管理職です。何らかのロジックを組んで算出されたジョブ型賃金に徹したところ中間管理職を誰もやりたがらなくなった、その結果企業戦略が遂行できなくなった、では本末転倒でしょう。場合によっては例えば、不人気な配役には値札を上乗せして労働者側の需要を喚起する、というような調整も必要かもしれません。

4つ目については、次回以降のコラムで取り上げてみます。

<まとめ>
中高年の賃金が下がることが、ジョブ型雇用の本質ではない。


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